末日聖徒イエス・キリスト教会、一般に「モルモン教」として知られるこの宗教は、世界中で1,700万人以上の信者を持つ、急速に成長している宗教の一つです。しかし、その名称は知られていても、その教えや実態についてはあまり詳しく知られていません。
本記事では、モルモン教の基本教義、信仰生活、そして世界的な社会活動について、客観的な事実に基づいて解説します。この記事を通じて、この宗教がどのようにして現代社会に広がり、信者たちがどのような価値観を持って生活しているのかを理解する手助けとなることを目指します。
モルモン教の基本概要
モルモン教の起源と創始者ジョセフ・スミス
末日聖徒イエス・キリスト教会(通称モルモン教)は、19世紀初頭のアメリカで誕生したキリスト教系の新宗教です。その創始者は、ニューヨーク州パルマイラ出身のジョセフ・スミスです。彼は14歳の時に神とイエス・キリストの啓示を受けたとされ、その経験が教会の設立につながったと信じられています。
1830年、スミスは「モルモン書」を出版し、正式に教会を組織しました。その後、信者たちは迫害を逃れながら、オハイオ州、ミズーリ州、イリノイ州と移動し、最終的にはブリガム・ヤングの指導のもと、現在のユタ州ソルトレイクシティに定住しました。ソルトレイクシティは現在も教会の本部が置かれています。
モルモン書の位置づけと教えの特徴
「モルモン書」は、聖書と並ぶ重要な聖典として位置づけられています。この書物には、紀元前600年頃にエルサレムを離れてアメリカ大陸に渡ったとされる人々の歴史と、復活したイエス・キリストが彼らのもとに現れ、教えを説いたことが記されています。
モルモン教の教えは、家族、コミュニティ、そして個人が永遠の進歩を遂げることを重視しています。特に、地上での家族関係が死後も続くと信じられており、家族の絆を非常に大切にする特徴があります。また、結婚は神聖なものであり、永遠に続くものとされています。
キリスト教との共通点と相違点
モルモン教は、イエス・キリストを救い主として信じ、神を崇拝する点で、多くのキリスト教宗派と共通しています。しかし、教義上にはいくつかの重要な相違点があります。
最も大きな違いの一つは、聖書の解釈に加えて「モルモン書」や「教義と約」などの独自の聖典を使用することです。また、神の性質に対する理解も異なります。モルモン教では、神とイエス・キリスト、聖霊は三位一体ではなく、それぞれが独立した存在であると考えられています。
モルモン教の信仰内容
神とイエス・キリストに対する理解
モルモン教徒は、神(天の御父)は霊的な存在であると同時に、完全に栄光化された体を持つ存在であると信じています。この教えは、「神が人間を神の形に創造した」という聖書の記述に基づいています。彼らは、人間が神の子であり、神が愛と慈悲に満ちた父であると教えています。このため、信者は神との個人的な関係を築き、祈りを通して直接的な導きを求めることができます。
イエス・キリストは、神の長子であり、人類の救い主であると信じられています。キリストの贖罪を通じて、すべての人が罪から救われ、神のもとに戻る道が開かれたと信じられています。特に、キリストの復活は、すべての人が死後も霊的な命を続けるという信仰の根幹をなす教えです。モルモン教徒は、キリストが地上での教会の回復を導いていると信じています。
家族と結婚に重きを置く教え
モルモン教では、家族は神が定められた基本単位であると教えられています。家族を強固にし、永遠に続くものとすることが、信仰生活の中心的な目的の一つです。これは、家族で祈りを捧げ、聖典を学び、共に活動する「家庭の夕べ」といった習慣にも反映されています。家庭の夕べは、毎週月曜日に家族全員が集まり、聖典を読んだり、話し合ったり、ゲームを楽しんだりする時間です。この習慣は、家族間のコミュニケーションを促進し、絆を深めることを目的としています。
結婚は、神殿で行われる特別な儀式を通じて、死後も続く「永遠の結婚」として結びつけられます。この教えは、信者たちに強固な家族関係を築く動機を与えています。永遠の結婚は、夫婦が共に神の前に進み、死後も夫婦として、また親として共に永遠を過ごすことができるという信仰に基づいています。このため、多くのモルモン教徒にとって、神殿での結婚は信仰の集大成であり、最も重要な出来事の一つです。
戒律や生活上のルール(飲酒・喫煙の禁止など)
モルモン教徒は、健康を保つための「知恵の言葉」と呼ばれる戒律を守ります。これは、単なる禁忌ではなく、神から与えられた健康と幸福のための原則として捉えられています。これには、アルコール飲料、タバコ、コーヒー、紅茶、違法薬物の摂取を避けることが含まれます。また、断食を行うことや、収入の10%を教会に寄付する什分の一の律法も守られています。断食は、通常月に一度、祈りと共に食事を抜くことで、霊的な成長と他者への奉仕の精神を養うために行われます。什分の一の寄付は、教会の運営や社会貢献活動の財源となり、信者の信仰心を象徴する行為とされています。
モルモン教の組織と社会的活動
末日聖徒イエス・キリスト教会の組織構造
末日聖徒イエス・キリスト教会は、世界的な組織として運営されています。教会の最高指導者は預言者であり、12人の使徒からなる十二使徒定員会と共に教会を導いています。地域ごとには、ステーク(教区)やワード(小教区)と呼ばれる組織があり、信者たちはこれらの単位で活動しています。
特筆すべきは、教会運営の多くが専任の聖職者ではなく、信者による無償の奉仕によって支えられている点です。
宣教師活動と世界的な広がり
モルモン教は、世界各地で精力的な宣教師活動を展開しています。若い男女が18ヶ月から2年間、自費で宣教師として派遣され、異なる文化圏の人々に教会のメッセージを伝えています。この活動により、教会は現在、世界170以上の国と地域に広がり、信者数は1,700万人を超えています。
教育・福祉・地域社会への貢献
教会は、信者だけでなく、地域社会全体に貢献するための様々な活動を行っています。貧困や災害の支援を行う人道支援活動や、家族歴史研究(系図学)の支援、教育プログラムの提供などが挙げられます。ユタ州のブリガム・ヤング大学をはじめとする教育機関も運営しており、学問の発展にも力を入れています。
まとめ
モルモン教は、その独特な聖典や家族を重んじる教え、厳格な生活規範、そして世界規模の組織構造を通じて、多くの人々に影響を与えています。キリスト教の枠組みに属しながらも独自の道を歩むこの宗教は、その組織力と社会貢献活動によって、今後も世界で存在感を増していくと考えられます。